© Verdura

"Fulco Cuff", in YG with various coloured stones and enamel. Made for Gabriel Chanel in the 1930's.

ヴェルドゥーラというジュエラーの名前をご存じですか? 宝飾品史に偉業を輝かせながら、今、日本ではその名前を知る人はあまり多くはないでしょう。20世紀前半の欧米のトレンドセッターであり、グレタ・ガルボやマレーネ・ディートリッヒ、キャサリン・ヘプバーン、リタ・ヘイワースといった銀幕の女優たちを夢中にさせたデザイナーです。

あるいは、ココ・シャネルのためにジュエリーをデザインした人物といえば、少しは通りがいいかもしれません。1898年にイタリアのシチリアに生まれたフルコ・ディ・ヴェルドゥーラ公爵は、ココ・シャネルに奇想の美的感覚を見出され、1927年から8年間カンボン通りのシャネルのアトリエでともに働き、ジュエリーコレクションを手がけたあとニューヨークに渡りました(この点、パリでスキャパレリの元で働き、渡米してティファニーのスターデザイナーとなったジャン・シュランベルジェと似ています)。最も有名な作品のひとつはマルタ十字をあしらったカフブレスレットで、鮮やかなカラードストーンをあしらったエキゾティックなデザインは、シャネルの大のお気に入りとなりました。

渡米してからの彼の存在は、まるでアメリカ社交界のスタイルアイコンのようでした。ハリウッドスターだけでなく、Vogue編集長ダイアナ・ヴリーランドやウィンザー公爵夫人、ビスマルク伯爵夫人らとも交遊し、画家ダリと共作するなど、活躍ぶりは目ざましいものでした。そのアイデアは自由奔放で、シチリアの陽光を思わせる強い色彩を好み、貝殻に宝石をはめこんで、ときには過剰ともいえる装飾を細部にほどこしました。彼の特異な造形感覚は、目の肥えた人々から高い評価をうけました。しかし大量生産にも広告活動にもまったく興味なし。気に入った顧客のためだけに、自分の思いのままのジュエリーを作って売るのが、彼の“貴族的”ビジネスだったのです。ですから、ヴェルドゥーラの1点もののジュエリーを持っていることは、上流社会での優越の証でもあったわけです。

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"Wrapped Ruby Heart Brooch", in YG and PT with cabochon rubies and diamonds. $135,000.

1978年に公爵が亡くなったあとは、宝石商ワード・ランドリガンが遺されたデザイン画を買い取り、ニューヨークの5thアヴェニューにあるクローズドなサロンで、忠実な復刻ジュエリーを販売しています。1980年代には日本橋高島屋にもヴェルドゥーラのコーナーがあったので、もしかしたら憶えている方もいるでしょう。

そして2011年2月14日、貴重な1万枚ものデザイン画のアーカイブが公開され、ジュエリーのオンライン販売ができるラグジュアリーなウェブサイトが新たにスタートされました。「ブランドの魅力と革新的なウェブデザインをマリアージュさせることで、味気なくなりがちなオンライン販売を豊かなものにしたかった」と、システムを構築したdotbox社のディレクター。たとえば俳優タイロン・パワーが最初にオーダーしたというハートモチーフのイエローサファイアブローチは、8万7500ドル(約720万円)。好みに応じてほかの石で作ってもらうことも可能です。

現在はサラ・ジェシカ・パーカー、アン・ハサウェイ、キャメロン・ディアスなども愛用しているというヴェルドゥーラ。各国で富裕層が活性化している今、公爵の歴史的名作をワンクリックで購入する人も、すでに現れています。

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