© Gagosian Gallery / Victoire de Castellane

"Extasium Ethero Coïtus", Ring in lacquered silver, white gold with diamonds and jade nephrite.

パリのガゴシアンギャラリーで、きわめてユニークな展覧会が行われています。展示されているのは、きらめく15のジュエリーオブジェ。デザインしたのは、あのヴィクトワール・ドゥ・カステラーヌ。現ディオール ファイン ジュエリーのアーティスティックディレクターをつとめる彼女が2年以上の月日をかけて制作したジュエリーが「Fleurs d’excès (過剰な花々)」と題され、公開されているのです。

「初めはいつもストーリーや世界観から。素材について考えるのは後回しです。観察し体験したものすべてに、わたしはストーリーを見い出します。反乱、愛、セクシュアリティ、喜び、暴力、抵抗、精神分析……、そしておとぎ話のかけらを」。こう語るヴィクトワールの作品には、碧玉、流紋岩、瑪瑙、水晶といったハードストーンが花器のように使われています。そこに生き生きと咲く花々はラッカー(西洋漆)で彩色され、ダイヤモンドが朝露のように光っています。ヴィクトワールの宝石好きは有名ですが、花や葉に宝石ではなくあえてラッカーを使うのは、自然界にも人工着色料にも存在する、毒々しいテクニカラーを表現したいから。艶消しのカーマインレッドから、黄金虫の羽を思わせるメタリックカラーまで、表現の幅広さは驚くほどです。

© Gagosian Gallery / Victoire de Castellane

"Opium Velourosa Purpa", Necklace in lacquered silver, white gold with rubies, diamonds and rhyolite.

5才のとき、祖母のネックレスをおもちゃにして遊んで、最初のジュエリーデザインのまねごとを始めたというヴィクトワール。後はほとんど独学で、シャネルのジュエリーデザイナーを14年間務めました。ディオールのファインジュエリー部門に着任したのは1998年。彼女の最初のショー「ヴェラドンナ アイランド」はパリのオランジュリー美術館にあるモネの睡蓮の間で2007年に開かれ、そのプレビューがインターネット上の仮想世界 Second Life で開催されたことでも大きな話題を呼びました。ハイパーリアルな食虫植物が花開いたり閉じたり、蝶が羽ばたいたりするデザインは、中国の古い機械仕掛けのナイチンゲールを想起させ、ときにはファベルジェのイースターエッグを思い出させました。

© Gagosian Gallery / Victoire de Castellane

"Quo Caïnus Magic Disco", Bracelet in lacquered silver, white gold with diamonds and smoky quartz.

伝統的なジュエリーの枠にとらわれないヴィクトワールのデザインは、ハイジュエリーを再定義したともいわれます。グリム童話やディズニー、日本の漫画にもインスパイアされたモチーフづかいは、愛らしいのにどこか毒があって、現代のバロックのようであるともいえるでしょう。NYタイムズ紙のスージー・メンケスは、ヴィクトワールのジュエリーが美しさとグロテスクのエッジにあることを指摘し、ルネ・ラリックとの相似を語っています。それもまた至当。ガゴシアンギャラリーでの展覧会は2011年3月22日までで、機会があればぜひ見ておきたいスペシャルなイベントです。

Gagosian Gallery Paris http://www.gagosian.com/